日本生物物理学会は、生命のメカニズムについて統合的かつ基本的な理解を進めることを目指して1960年に創設されました。
当初より、物理学、化学、分子生物学、生化学、工学、計算科学など、あらゆる学問分野を融合したアプローチが特徴です。
生物物理学は生物学や物理学の一分野ではありません。生命科学の基盤をなすものです。上記のようにあらゆる学問分野を融合し、実験計測、計算科学、理論的取扱等における新たな手法を開拓し開発することで、生命のメカニズムに対する深い洞察を得てその基本的理解を深めることが目的です。医療や産業への応用により人類社会の健全な発展に貢献することもその大切な役割です。
日本生物物理学会が50年の歴史を経る間に、生命科学は大きな発展を遂げました。多様な生命現象が発現するメカニズムの解明のために様々な観察・計測技術が開発され応用されて、新しい生命科学の分野を切り拓いてきました。蛋白質やDNA一分子の挙動や相互作用を観察・操作し、生体超分子の立体構造とその変化を原子レベルで解明し、ヒトゲノムのDNA塩基配列を数時間で読み解き、脳の活動を被侵襲で計測するなど、学会創立の頃には夢でしかなかった技術がつぎつぎと実現しています。1960年頃にはぼんやりとした夢であったものが時代とともに明確な目標となり、研究者を駆り立て、それが新たな発見や発明に結びつき、新しい計測技術として結実しました。不可能に思えても決してあきらめることなく、個々の研究者が強い情熱と高い志をもって飽くなき挑戦を続けた結果であり、そうした強い思いの結晶であるとも言えます。そして実にその多くが、本学会のメンバーを含む生物物理学分野の研究者による発想や努力の成果です。
これからの生命科学の発展にとって、生物物理学の担うべき役割と果たすべき責任はますます重要になっています。今、我々の目の前にある大きな課題は、生命を複雑で大規模な動的ネットワークシステムとして捉え、その動態を観察・計測し、モデル化して動態を再現することにより生命機能のメカニズムを解明するという、きわめて困難なものです。生物物理という学問分野には、そのためにより一層の挑戦と発展が求められています。この新たな地平を開拓する若い研究者達が思う存分活躍できる場として、会員の皆さまにはご協力とご支援を、また大学、研究機関、研究支援機関、学協会にも様々な形でご支援をいただき、これからの日本生物物理学会を育てていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
難波 啓一
日本生物物理学会 会長
大阪大学 大学院 生命機能研究科 教授
本学会は一昨年創立50周年を迎え、本年早々に会誌「生物物理」300号を出版することになりました。積み上げた歴史をふり返りつつ未来につなげる号を世に出せるのは、会長としても、この学会に育てていただいた一研究者としても、この上ない喜びです。
「生物物理」は会員向け日本語総説誌として、分野の動向を概観し会員間の学術交流を図ることで分野の発展を推進することを目的としています。研究成果の発信、内容の議論、情報交換の場として、年会とともに重要な役割を果たしています。
時代の要請に対応した出版形態の変更の可能性について、年明け早々に会員の皆様からご意見を伺ったところ、実質4日間程の短い期間に800件近いご意見をいただきました。「生物物理」が如何に深く愛着をもって読まれているか、あらためて強く認識させられることとなりました。
個々の研究者の深い洞察力と知的好奇心に基づいて生命現象の基本的理解に挑戦する生物物理という学問分野が、研究者の年齢に関わらず常に若い力と発想によって発展し続けること、そして、会誌「生物物理」がそのための学術交流や情報交換の場として今後も大いに活用されることを心から願い、また楽しみにしたいと思います。