会長挨拶

  日本生物物理学会は、今から55年前の1960年に誕生し、2014年1月には、それまでの任意団体から一般社団法人日本生物物理学会へと生まれ変わりました。私は、大学院修士学生の頃に本学会に入会後、長年にわたり本学会を自身の研究の中心の学会として活動してまいりました。本年2015年6月27日から2年間の任期で、会長として本学会の運営を行うことになり、たいへん光栄に思うと同時に、55年間の歴史を引き継いでさらに本学会を発展させる責務を考えますと、身の引き締まる思いです。
 「生物物理学とはどのような学問ですか?」という問いに対しては、3000名あまりの学会員はそれぞれ異なる答えをお持ちかもしれませんが、共通する考えは、『「生き物」に対する「物の理(ことわり)」を明らかにする学問』すなわち『生命現象を合理的に理解しようとする学問』と言ってよろしいと思います。ですから、必ずしも出身や所属が物理学関連の部局である必要はなく、研究のアプローチや目的が上記に合致していれば、その人は生物物理学の研究を実施しているわけであり、生命現象の合理的理解のためには未開の多くのアプローチによる研究が今後ともなされる必要があります。
 以前、学会誌の巻頭言でも述べたのですが(2013年 Vol.53, No. 6)、このような生物物理学は「学不学」の学問、すなわち「これまで学問としては確立していないことを学ぶこと」とも言えます。中世の神学のように一見確立されたかのように見えることがらを「習う」こととは異なり、現代の科学は多かれ少なかれ全て「学不学」の要素を持つ学問と言えますが、とりわけ生物物理学は個々の研究者の創意による研究が必須な学問と考えています。このような「学不学」の学問を進めるには、何よりも多様性が必要です。研究分野やアプローチ手法の多様性に加えて研究者(国内外の地域、年齢、性別、職種など)の多様性を尊重することでのみ、「学不学」の学問が進んでいくものと思います。そして、若い研究者や異なる分野の研究者によって提案される斬新なアイデアやアプローチ、理論を歓迎し取り込むことによってのみ、生物物理学はさらに発展していくことができるものと考えます。
 私の任期の期間中においては、このように多様性を常に尊重した運営をしていきたいと考えております。特に若手・女性の研究者が、将来の希望をもって研究ができるように努力をする所存です。もちろん、シニアの会員の皆様にも居心地が悪くない学会であることは言うまでもありません。グローバル化の時代において、年会に海外から研究者を迎えて講演をお願いするだけでなく、本学会員がIUPAB等を通じて積極的に海外の様々なBiophysics関連の会合へ参加していただきたく思いますし、そのような活動の支援を持続可能な形にしたいと考えています。また、これまでに例が無かったのですが、産業界からも学会の理事にご参加いただくことになり、若手会員のキャリアパスの問題などに対してもコミットしていただこうと考えております。
 ところで、本年から、これまでBIOPHYSICSと称していた欧文誌は、その名称をBiophysics and Physicobiologyと改め、上記の概念による「生物物理学」を具現化する国際誌として生まれ変わることになりました。オープン・サイエンス化が進む中で、多くの商業的な雑誌の出版は極めて難しい状況におかれています。実際、一部のトップジャーナルを除くと、どこもインパクト・ファクターの低下と投稿数の減少、投稿費あるいは購読料の上昇という負のスパイラルに喘いでいます。しかし、学会が運営を行う雑誌では経済原理のみではない要素が働きますので、うまく運営をすることで優れた国際誌とするチャンスが逆にあるものと考えております。
 最後に、一般社団法人としての本学会は、社会との接点をさらに広く深くすることが必要だと考えております。邦文誌「生物物理」というリソースを活用することによって生物物理学を社会に広め、「生物物理学って何をしているの?」という冒頭に述べた問いを世間から受けないように努力したいと思っております。
 本学会の理事や様々な委員会の委員の皆様をはじめとして、学会員の全ての皆様に、学会活動へのご協力とご支援とをお願いいたします。また、大学、研究機関、研究支援機構、学協会、関連する企業の方々にも様々な形でのご支援をお願いいたします。

2015年6月27日
中村春木
  一般社団法人日本生物物理学会 会長
  大阪大学 蛋白質研究所 教授