学問への畏敬
水谷 泰久
GPIアンカー型タンパク質における脂質アンカーの役割解明
野村 薫
GPIアンカー型タンパク質は,翻訳後修飾された膜タンパク質であるため大量調製は難しい.本総説では,イモリの肢再生制御タンパク質Prod1を中心に,大腸菌に発現させたタンパク質部と化学合成したアンカーから,半合成的に調製した脂質アンカー型タンパク質の模倣系を用いた,脂質アンカーの役割解明研究について概説したい.
生体分子モーター・キネシンの“散逸”を計測する
有賀 隆行,富重 道雄,水野 大介
キネシンは化学的な自由エネルギーを力学エネルギーへと変換する生体分子モーターである.しかしそのエネルギー論の理解は,非平衡でゆらぎが支配する小さい系という条件により難しかった.本稿では,1分子キネシンのゆらぎと応答の計測からその散逸を実験で定量し,数理モデルを用いて検証した研究について紹介する.
ゲノムの3次元高次分子構造を解く
谷口 雄一,大野 雅恵
ゲノムが細胞核にどのような形態で収納されているかは,生命科学における長年の重要問題である.1953年にDNAの2重螺旋構造が発見され,1974年にヒストン8量体に巻き付いて形成されるヌクレオソーム構造が提案された.しかし,ヌクレオソームが細胞内でどのような配列を取るかは明らかとなっていない.本総説では,我々が最近開発に成功した全ゲノム3次元ヌクレオソーム配列構造解析法の背景と概要について解説する.
部分フッ素化リン脂質二分子膜~物性・構造と膜タンパク質研究への展開~
園山 正史,高木 俊之,高橋 浩
膜タンパク質の解析ツールを目指し,疎水鎖の末端部をフッ素化した新規部分フッ素化リン脂質群を開発した.そのゲル―液晶相転移温度は,フッ素含量に顕著に依存し,特にC8F17基の導入は,転移温度を飛躍的に上昇させた.また,再構成したバクテリオロドプシンは天然類似の高次構造・光サイクルと高い熱安定性を示した.
タンパク質の分子進化における構造安定性の役割
高野 和文
タンパク質の安定性は,立体構造を維持するだけでなく,分子進化にも影響を与える.安定性は,進化を潜在的に支配し,その方向を決定する.これは「分子進化のほぼ中立説」と関連付けて理解でき,より広範囲な配列空間の探索が可能な新たな進化工学手法となる.
オプトジェネティクス触覚モデルによる異種感覚間可塑性の定量的解析
阿部 健太,八尾 寛
感覚を入出力関数として定量化する方法として,覚醒ラットにオプトジェネティクスを応用し,機械受容ニューロン神経終末の光による直接刺激に行動を条件付けたときの反応時間を精密に計測した.ここから,行動誘発に必要な感覚刺激の閾値を求め,視覚剥奪群と非剥奪群で比較することにより,異種感覚間可塑性を評価した.
混合正規分布を用いた剛体フィッティング法:電顕密度マップに原子モデルを重ねる計算
川端 猛
電子顕微鏡の密度マップに原子モデルを重ね合わせる剛体フィッティングは,原子モデリングの第一歩である.ガウス関数群の和(混合正規分布モデル;Gaussian mixture model)で密度マップや原子モデルを表すと,効率的に重ね合わせを行うことができる.その計算の仕組みや今後の発展の方向について解説する.
インフルエンザウイルスの運動とその制御
堺 立也,齊藤 峰輝
インフルエンザウイルスは,2種類のスパイクタンパク質,ヘマグルチニンとノイラミニダーゼを駆使し,細胞表面を動き回ることができる.また単に運動するだけでなく運動方向を制御できるウイルスもいる.このインフルエンザウイルスが有する新規の運動機構とその制御機構について紹介する.
赤色光/遠赤色光による哺乳類培養細胞のシグナル伝達系の光操作
後藤 祐平,青木 一洋
細胞内シグナル伝達の光遺伝学技術が開発されてきたが,その多くは青色光に応答するものであり,長波長の光に応答する光遺伝学技術は限られていた.本稿では,著者らが開発した赤色光/ 遠赤色光に応答するフィトクロムの発色団フィコシアノビリンを生合成するシステムと,光遺伝学への応用について概説する.
キチン加水分解酵素は熱ゆらぎを利用して1方向に動きながら結晶性バイオマスを分解する
中村 彰彦,岡崎 圭一,古田 忠臣,櫻井 実,飯野 亮太
キチン加水分解酵素(キチナーゼ)は安定な結晶性キチンを分解しながら運動するリニアモータータンパク質である.1分子計測,X線結晶構造解析及び分子動力学シミュレーションを組み合わせることで,キチナーゼがBurnt-bridgeブラウニアンラチェット酵素であることを明らかにしたの紹介する.