今までの「当たり前」は本当に「当たり前」か?
野地 博行
液液相分離が見せる細胞骨格と核酸と脂質の離合集散
瀧口 金吾,作田 浩輝,林 真人,和泉 達幸,湊元 幹太,吉川研一
液液相分離は,ある分子が他の分子よりも高濃度で存在する領域が溶液中に現れる現象である.相分離が生じている溶液中での蛋白質や核酸の動態を再現する実験系は,細胞や生命の起源を担った分子機構を推測し理解するための挑戦的な研究手法である.本解説では近年の我々の成果の紹介を通じ,その現状と課題について述べる.
Enzymes and Liquid-Liquid Phase Separation: A New Era for the Regulation of Enzymatic Activity
Mirco DINDO, Alessandro BEVILACQUA and Paola LAURINO
液液相分離(LLPS)は,酵素活性の調節機構として認識されており反応速度を高めたり,反応速度を低下させたりすることが知られている.一方,LLPSは分子の拡散,酵素活性に重要な密度・物理的特徴を調節して酵素反応速度を増減させる可能性がある.さらに,特定の酵素の共局在化は,特定の代謝流束を調整することができる.
プロスタグランジン受容体の構造生物学
寿野 良二,清水(小林) 拓也
脂質メディエーターであるプロスタグランジン(PG)はその受容体を介したシグナル伝達によって,生体内の様々な作用を示す.PG受容体の構造生物学によるシグナル伝達の分子機構の解明は創薬にも貢献する.
姉妹染色分体間接着因子コヒーシンの一分子動態解析
木下 慶美,西山 朋子
コヒーシンは,複製された姉妹染色分体間を接着し,染色体の均等分配に必須の因子である.我々は,コヒーシンリングの構造変化を阻害することで,染色体の分配や複製の進行だけでなく,クロマチンの高次構造形成が正常に行われなくなることを,単一分子イメージングや染色体形態観察に基づいて明らかにした.
フォルミン阻害剤SMIFH2はミオシンスーパーファミリーの活性を阻害する
西村 有香子
細胞運動や形態形成時には,細胞内部で迅速なアクチン細胞骨格の再編成が引き起こされる.これらの現象の解析にはアクチン細胞骨格関連因子の阻害剤が重宝されているが,その便利さの裏には落とし穴もある.本稿では,最近のフォルミン阻害剤についての知見を紹介し,阻害剤の使用とその解析について注意を喚起したい.
大腸菌L-formの増殖における外膜の重要性
塩見 大輔,大島 拓
バクテリアは細胞壁合成が阻害されると溶菌するが,高浸透圧条件下では一部の細胞が細胞壁が無くても生存可能なL-formと呼ばれる状態に変換し,増殖できる.本稿では,その変換機構を明らかにすべく,我々の研究チームが行ったL-formのリアルタイム可視化による成果を中心に紹介する.
ポリアミン輸送体ATP13A2の構造基盤
富田 篤弘
ポリアミンは多くの生命現象に関与しており,中でもスペルミン(SPM)は転写活性の調節や有害物質からの細胞の保護など重要な役割を担っているため生物に必須な分子である.本稿では細胞内へのSPMの取り込みの役割を担う輸送体ATP13A2について,クライオ電子顕微鏡法・分子動力学シミュレーションから得られた構造基盤を紹介する.
非線形光学顕微鏡による生細胞イメージング
塗谷 睦生
蛍光分子の2光子励起に代表される非線形光学現象には,それ以外にも様々な種類がある.これらは生細胞イメージングに適した特長を共有しつつ,それぞれ独自の情報を観測者に与える.近年の技術発展により応用性が拡大する種々の非線形光学顕微鏡の活用により,生細胞の可視化解析に新たな展開がもたらされると期待される.