人工生体分子システム

「物質から人工的な生命システムを創り,生命と物質の境界を探る」

■背景
「生命」は我々の宇宙の中で最も複雑なシステムの一つと言えます.生命には,非生命の物質にはないダイナミックな自律性,思いもよらない機能の創発,さらには知性など,興味深い豊かで複雑な時空間秩序現象が見られます.生命システムは複雑ではありますが,非生命の物質と同じ,通常の物質系(原子・分子・イオンなど)からできています.したがって,材料的には生命と非生命の物質の間に本質的な違いはありません.それでは,「生命」と「物質」の違いはどこにあるのでしょうか.



図1. (a) DNAナノテクノロジーによる自律的な生体分子コンピュータ[6].(b)マイクロ流体技術による非平衡開放系の人工細胞リアクタ[2,4].(c) 非平衡開放系で自律的に運動するマイクロ液滴[5].(d)マイクロ流体技術による細胞サイズのマイクロゲル粒子[1]と人工細胞膜小胞(リポソーム)の生成[3].



図2 人工生体分子システムが拓く基礎科学と工学技術(http://www.takinoue-lab.jp)

■研究概要
以上のような疑問に答えるため,非生命の物質から自律的に動く人工的な生命システムを創り,「生命」と「物質」の違いに迫る研究を進めています.人工的な生命システムを創る過程で,生命システムの物理学的な構築原理を探求するというアプローチをとっています.地球上に存在する生命は,物理学・化学の法則の基で物質として可能な「生命」という形態のほんの一部であると考えられますので,既存の生命の枠を超えて「生命」を一般化して捉えるには,人工的な構成系を使った研究が必要となります.このような研究は,Biophysicsの中でも,Bio-inspired Physicsといえます.
このような研究されるのが,生体分子ナノバイオテクノロジー,マイクロ流体工学,非線形非平衡物理学です.分子をナノメートルスケールで自己組織化させたり,自己組織化分子集合体をマイクロメートルスケールの流体技術で操作したりします.さらに,非線形非平衡物理学の原理をベースにして,単なる物質の集合であったシステムに,生命システムのような自律性を与えます(図1).このような研究を進めることによって,人工分子モーター,分子ロボット,人工細胞,人工生体組織,さらには人工的な脳のようなものまで構築され,それらの構築原理も理解されるということが期待されます.

■科学的・社会的意義
このような研究は,生命システムを形作る物理法則を解明するという基礎科学のみならず,生命システムのように複雑で非常に優れたシステムを工学的に作り活用して,社会に還元するという役割を果たします(図2).

■参考文献
1)M. Hayakawa, H. Onoe, K. H. Nagai, M. Takinoue, “Complex-shaped three- dimensional multi-compartmental microparticles generated by diffusional and Marangoni microflows in centrifugally discharged droplets”, Sci. Rep., (2016) in press
2)H. Sugiura, M. Ito, T. Okuaki, Y. Mori, H. Kitahata, M. Takinoue, “Pulse-density modulation control of chemical oscillation far from equilibrium in a droplet open-reactor system”, Nature Commun., vol.7, 10212 (2016).
3)M. Morita, H. Onoe, M. Yanagisawa, H. Ito, M. Ichikawa, K. Fujiwara, H. Saito, M. Takinoue, “Droplet-Shooting and Size-Filtration (DSSF) Method for Synthesis of Cell-Sized Liposomes with Controlled Lipid Compositions”, ChemBioChem, vol. 16, no. 14, pp. 2029-2035 (2015).
4)M. Takinoue, S. Takeuchi, “Droplet microfluidics for the study of artificial cells”, Anal. Bioanal. Chem. 400, 1705-1716 (2011)
5)M. Takinoue, Y. Atsumi, K. Yoshikawa, “Rotary motion driven by a direct current electric field”, Appl. Phys. Lett., vol.96, 104105 (2010).
6)M. Takinoue, D. Kiga, K.-i. Shohda, A. Suyama, “Experiments and simulation models of a basic computation element of an autonomous molecular computing system”, Phys. Rev. E 78, 041921 (2008).

■良く使用する材料・機器
1)共焦点レーザ走査型顕微鏡システム FV1000-D (オリンパス株式会社
2)蛍光位相差顕微鏡システム IX71, IX81 (オリンパス株式会社
3)EMCCDカメラ iXon X3,sCMOSカメラ Zyla (アンドール株式会社)
4)高速度カメラ FASTCAM SA3 (株式会社フォトロン)
5)超解像度デジタルマイクロスコープ VHX-2000 (株式会社キーエンス)
6)レーザー直接描画装置 μPG101-D (株式会社日本レーザー)
7)実験試薬 (和光純薬株式会社,シグマ アルドリッチ,他)


H27年度分野別専門委員
東京工業大学・大学院総合理工学研究科
知能システム科学専攻
瀧ノ上 正浩 (たきのうえ まさひろ)
http://www.takinoue-lab.jp