DNAコンピューティング

「動作がプログラムできる人工的なDNA反応システムを構築し、
生物システムの動作原理を探る」

■背景
生活家電からロケットまで、人間のあらゆる活動において、電子コンピュータを用いた自動化や精密な制御が行われています。生物学研究も例外ではなく、生命現象を観察・操作する際に多くの電子機器が活躍しています。しかし、生命現象を実現しているタンパク質などの分子マシンの動作を、一つ一つ電子コンピュータで制御することはできません。それでは、生物はどのようにして膨大な種類の分子反応を制御し、生命活動を営んでいるのでしょうか?



図1 核酸シグナルを受け取って状態遷移する1分子DNAコンピュータ「D-WPCR (Displacement Whiplash PCR)」。多段階の情報処理が37℃で進行する。


■研究概要
生物は、DNAの塩基配列にコードされた設計図にしたがってたくさんのタンパク質を合成し、様々な機能を持つタンパク質がお互いを制御するネットワークを構築し、複雑で知的な動作を実行しているシステムです。DNAにはタンパク質のように多様な反応を直接制御する機能はありませんが、合成や複製が容易で扱いやすく、相補配列どうしが特異的に結合する性質を持っています。DNAコンピューティングは、DNAの配列特異的な結合を基礎として人工的な反応ネットワークを構築し、知的な動作が実行できる比較的単純なシステムを創ることを通じて、生物システムの動作原理を解明しようとする分野です(図1、文献1)。

■科学的・社会的意義
本研究で創る知的なシステムは、DNA をはじめ既知の生体分子のみで構成されるため、詳細な検証が可能であるだけでなく、天然の生体分子反応とも直接相互作用します。DNAの配列を変更するだけで動作が変更でき、生命現象を、あらかじめDNA配列でプログラムした動作によって“分子レベルで自動制御する”ツールとなることも期待されます。また、運動機能を持つ人工生体分子システムに対する制御機構として用いれば、近い将来、分子反応で動く分子ロボットが実現できるでしょう(文献2)。

■参考文献
1)Komiya, K., Yamamura M., Rose J. A. (2010), “Experimental Validation and Optimization of Signal Dependent Operation in Whiplash PCR,” Natural Computing, 9(1): 207-218.
2)Murata, S., Hagiya, M., et al. (2012), “Molecular Robotics: A New Paradigm for Artifacts,” New Generation Computing, in press.

■良く使用する材料・機器
1) 蛍光分光光度計 FP-6500(日本分光株式会社)
2) リアルタイムPCR解析システム CFX96 Touch(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)
3) 蛍光画像解析装置 FLA-5100(富士フィルム株式会社)




H23, 24年度分野別専門委員
東京工業大学・知能システム科学
小宮 健 (こみや けん)
http://bio-inspired.chemistry.jpn.com/