医用生体工学

「生物を倣い、材料から習う、ナノバイオエンジニアリング」

■背景
生物は、DNAやDNA情報をもとに合成されるタンパク質など生体高分子と呼ばれる生物由来の材料が織りなす複雑な相互作用を利用して、機械ではまねができない、精緻でダイナミックな生物機能を発現しています。このメカニズムを解明し、人工的に生物機能を発現するマシーンをつくることができれば、医療や診断といった医用分野への可能性は多いに広がります。

■研究概要
生物の基本単位である細胞は、三種類の細胞骨格と呼ばれる、タンパク質でできたネットワーク構造を必要なときに、必要な形でひとりでに造ったり、壊しながら、金属やセラミックス、プラスチックといった人工の材料では不可能な機能を実現しています。私たちは、この細胞骨格に注目して、細胞骨格を主原料として、傷ついても直ぐに治癒する自己修復能力を持つ材料を開発しました。この材料はそれだけでなく、運動素子として機能したり、時計やメモリー材料として機能する可能性を秘めています(図1、文献1, 2)。もともと細胞から取ってきたものを使えば、これらの生物的な機能を持っていて当たり前ではないか?と思うかもしれませんが、生物から取ってきただけでは、残念ながらこのような生物的な機能は発現しません。私たちは、そこに人工的な工夫、化学架橋を適量入れてあげることで、初めて生物的な機能を獲得させることができることを明らかにしました。また生物材料が、チタンなどの無機材料とも使い方によっては非常に相性がいいことも明らかになってきました。この性質を活かして、医用材料の改良やドラッグデリバリーシステムへの応用もおこなっています(図2、文献3)。この方法を応用して、糖尿病の注射薬であるインスリンを飲み薬にする試みにも取り組んでいます。また最近では、アスベストなど人体に影響を与える材料をヒントに、医用材料の開発も進めています。

■科学的・社会的意義
本研究は、生物機能を持った新しい材料開発や医用材料の開発に応用できることが期待できるだけでなく、新しく作った材料の機能発現メカニズムの解析から,これまで生物の中を調べるだけでは見えてこなかった現象を明らかにすることができると期待しています。

■参考文献
1. Sano K., Kawamura R., et al. (2011) “Self-repairing filamentous actin hydrogel with hierarchical structure” Biomacromolecules, 12(12): 4173-4177.
2. 佐野健一、川村隆三、他 (2010)“バイオアクチュエータとしての細胞骨格トレッドミルマシン” 未来を動かすソフトアクチュエータ―高分子・生体材料を中心とした研究開発― 長田義仁・田口隆久監修、 シーエムシー出版: 332-339.
3. Sano K., Minamisawa, T., Shiba K. (2010) “Autonomous Silica-Encapsulation and Sustained-Release of Anti-Cancer Protein” Langmuir, 26(4): 2231-2234.

■良く使用する材料・機器
1) 蛍光顕微鏡システム BX61, IX51 (オリンパス
2) 高速液体クロマトグラフィー (JASCO)
3) 遺伝子増幅装置 (Applied Biosystems)




図1 A: 細胞骨格タンパク質(図はアクチン)を使ったハイドロゲル材料作製の概要。B: 細胞骨格タンパク質で作製したハイドロゲル材料の蛍光顕微鏡像。緑に見えるのが細胞骨格タンパク質で、ネットワーク構造をつくっていることが分かる。




図2 無機材料と相性の良い生体材料で作製した、DDS材料(左上)。血中投与により、がんなどの標的部位に上手く到達することが課題。


H25年度分野別専門委員
日本工業大学・創造システム工学科
佐野 健一 (さのけんいち)
http://www.nit.ac.jp/gakka/subject/kyoin7/se_sano.html