分子進化・タンパク質進化

「タンパク質進化における多様性」

■背景
タンパク質は20種類のアミノ酸がいろいろな順序で結合した1本の糸(ポリマー)です。この組み合わせはアミノ酸100個という短いタンパク質でも10130種類という宇宙全体の原子の数より大きな天文学的数字になります。
例えば、人間には約10万種類のタンパク質があると言われています。
そのタンパク質ひとつひとつはその機能に関して最適なたった一つの配列といえるのでしょうか。それとも複数の解をもちえるのでしょうか?



図1 進化分子工学のcDNA display法による試験管内淘汰
ランダムなタンパク質を無細胞翻訳中のリボソームで合成し、mRNAをcDNAに逆転写し、cDNAとそれにコードされたタンパク質を連結体(cDNA display分子)のライブラリを標的分子と接触させ、結合能のあるものを淘汰する。




図2 IL-6レセプターにアゴニストとして働くIL-6とThree-finger scaffold IL-6はαへリックスという2次構造からできている(左)。一方、Three-finger scaffoldはβシートという2次構造からできている(右)。しかし、Three-finger scaffoldの指先部分に変異を入れたライブラリを作製し、図1の方法で淘汰したところ下の細胞増殖アッセイにあるようにIL-6と同じように細胞を増殖させることがわかった。(参考文献2参照)


■研究概要
私たちは1012種類のタンパク質から特定の機能のみを淘汰する進化分子工学の技術を用いて、抗体医薬の標的ともなっているインターロイキン6レセプター(IL-6R)に対し、本来結合しない蛇毒由来タンパク質(Three-finger Toxin)の一部をランダムに変異させたライブラリを用いて特異的に結合するものを複数取得しました。興味深いことにこの中には結合するだけでなく、インターロイキン6(IL-6)と同じように作用するものが見出されました。

■科学的・社会的意義
抗体は分子標的医薬として大変有用なバイオ医薬品として注目されています。しかし、高額な製造コスト、診断チップに搭載する際の安定性などの問題があります。今回用いたThree-finger Toxinは大腸菌で安価に合成でき、抗体に比べ格段に安定性が高いという特徴があります。その指先部分をランダム配列にすることで抗体のように様々な分子を認識することが可能な次世代抗体の一種です。まさに毒を薬に変えるバイオ医薬といえます。従来の抗体の課題を克服し、より広く医療や産業応用に役立つことが期待されています。

■参考文献
1) J. Yamaguchi, M. Naimuddin, M. Biyani, T. Sasaki, M. Machida, T. Kubo, T. Funatsu, Y. Husimi, N. Nemoto, “cDNA display: a novel screening method for functional disulfide-rich peptides by solid-phase synthesis and stabilization of mRNA-protein fusions” Nucleic Acids Res, Vol.37, e108 (2009)

2) M. Naimuddin, S. Kobayashi, C. Tsutsui, M. Machida, N. Nemoto, T. Sakai, T.Kubo, “Directed evolution of a three-finger neurotoxin using cDNA display
yields antagonists as well as agonists of interleukin-6 receptor signaling” Mol.
Brain, Vol.4, 2 (2011)

■良く使用する材料・機器
1)蛍光相関分光法(FCS)装置(和光純薬株式会社
2)実験試薬 (和光純薬株式会社


H24年度分野別専門委員
埼玉大学・工学部機能材料工学科
根本直人 (ねもとなおと)
http://www.fms.saitama-u.ac.jp/lab/nemoto/publication.html