構造ゲノム科学

「タンパク質の“かたち”から生命活動を視る」

■背景
ほとんどの生命活動は、ゲノムDNA情報から作られるタンパク質が担っています。これらタンパク質の“はたらき(機能)”が複雑に関わり合って生命活動が維持されています。タンパク質の機能は、それぞれ固有の“かたち(立体構造)”に起因しています。構造ゲノム科学は、多種多様なタンパク質またはタンパク質と生体構成因子(タンパク質や核酸を含む)との複合体の立体構造を物理的に知ることで、タンパク質が織りなす世界から生命活動を統合的に理解しようとする研究領域です。



図1 膜タンパク質の試験管内合成概略図。界面活性剤(油を溶かす)と脂質(油)を試験管内に入れ、徐々に界面活性剤を除去しタンパク質を合成することを特徴とする。




図2 真核生物(緑藻)由来の光受容膜タンパク質(ARII、緑)の結晶と構造および機能に重要な部位の拡大図。同様の機能を持つ細菌の光受容膜タンパク質(BR、紫;ppR、オレンジ)との比較。同属タンパク質でも細部では構造が異なることで機能に違いがでる。




図3 様々なタンパク質の織りなす世界とその応用(上段)と部品を組み立て製品化することと性能制御や故障時の修理(下段)との対応。


■研究概要
タンパク質には、細胞膜に埋まって働く膜タンパク質と呼ばれるタンパク質があります。これら膜タンパク質は、細胞の外との物質や情報のやりとりを担うため、非常に重要なタンパク質です。しかし、2012年10月16日現在登録されているタンパク質のうちの1%程度しか立体構造が決定されていません。私たちは、この問題の要因の1つである試料大量取得について研究を進め、試験管内での膜タンパク質の大量合成法を開発しました(図1、文献1,2)。さらにこの方法を使って、真核生物由来の膜タンパク質を結晶化して立体構造を決め、機能との関係について明らかにしました(図2、文献3)。また膜タンパク質の効率の良い結晶化方法についても研究しています。

■科学的・社会的意義
種々のタンパク質の関わりを立体構造の観点から知ることは、生命活動を物理的に解釈することにつながるだけでなく、タンパク質ネットワークの破綻による様々疾患原因解明やタンパク質を標的とした副作用の少ない画期的な新薬の開発が期待されます(図3)。

■参考文献
1)下野和実、白水美香子、横山茂之 (2011) "無細胞タンパク質合成による膜タンパク質の生産" 生物物理, 51, 128-129.
2)下野和実、白水美香子、横山茂之 (2010) "無細胞タンパク質合成系を活用した膜タンパク質合成方法" 実験医学, 28, 1775-1780.
3)Wada, T., K. Shimono et al. (2011) “Crystal structure of the eukaryotic light-driven proton pumping rhodopsin, Acetabularia rhodopsin II from marine alga” J. Mol. Biol., 411(5), 986-998.

■良く使用する材料・機器
1) 実験試薬 (和光純薬株式会社
2) 無細胞タンパク質合成試薬 (大陽日酸株式会社
3) タンパク質精製装置 (GEヘルスケア・ジャパン株式会社)
4) 生体高分子用X線回折装置 (株式会社リガク)
5) 結晶観察用実体または偏光顕微鏡 (株式会社ニコンオリンパス株式会社


H24年度分野別専門委員
松山大学・薬学部
理化学研究所・生命分子システム基盤研究領域
下野和実 (しものかずみ)
http://ghp01.matsuyama-u.ac.jp/~yakugaku/laboratory/labo_pharmaceutics.html