分子生物学的手法

「光と生命の関わりを探る」

■背景
私たち動物にとって視覚は最も重要な感覚の一つです。動物だけでなく、植物やバクテリアなど多くの生物が光に対して反応することが分かってきています。それぞれの生物はどのように光を感じるのでしょうか?
生体内にはナノメートルスケールの光受容分子が存在していて、それらが光を受容し情報を他の分子に伝達することで生物は光に応答します(図1A)。ですから、光と生命の関わりを理解するには、それぞれの光受容分子の機能や挙動、および他の生体分子との相互作用を解明することが重要であるということになります。



図1 様々な生物の光情報受容タンパク質(A)。オーレオクロームによる光環境認識機構研究の概念(B)。



図2 脊椎動物のオプシンの系統関係と吸収極大波長(A)。脊椎動物の視細胞での光情報伝達機構(B)。



図3 イモリの網膜再生のモデル図と(左)と発現するタンパク質(右)


■研究概要
近年の研究で、黄色植物の光依存的分岐反応に関与すると光受容分子として、オーレオクロームが発見されました。オーレオクロームは、青色光受容領域であるLOVドメインおよびDNA結合領域であるbZIPドメインを持ち、光制御型転写因子であるとされています。私たちは、オーレオクロームの光依存的な変化と情報の伝達機構を調べています(図1B)。転写因子はDNAに結合して遺伝子の活性を調節するタンパク質で、細胞生物学的あるいは分子生物学的な視点からよく研究されていますが、生物物理学的な解析は限られています。そこで、特定のアミノ酸を置換した変異体の作成や、光散乱を用いたブラウン運動の測定などにより、転写因子の構造変化や挙動の解明を進めています。
また、動物にとって視覚は最も重要な感覚の一つですから、それぞれの習性や光環境にあわせて視覚を適応させてきました。そのため、眼や網膜組織にはそれぞれの動物種が歩んできた進化の過程が記録されています(図2A)。同様に、視細胞内で働く光情報伝達系タンパク質のアミノ酸配列や性質にも、それぞれの分子の系譜が記録されています(図2B)。私たちは、様々な脊椎動物の視覚を遺伝子レベルで解析し、それぞれの視覚の特徴がどのようにして生み出されるかを調べました。さらには、網膜を再生できるイモリについて、網膜の再生過程で生じる遺伝子の発現変化についても解析しています(図3)。

■科学的・社会的意義
本研究は、生物と光との関係を理解する上で重要な意味を持つとともに、転写を光制御するシステムの開発など、生体光制御システムの構築への応用が期待されます。

■参考文献
1)Hisatomi, O. et al. (2013). "Blue light-induced conformational changes in a light-regulated transcription factor, aureochrome-1." Plant Cell Physiol. in press (DOI:10.1093/pcp/pcs160).
2)Hisatomi, O. and Tokunaga, F. (2002) "Molecular evolution of proteins involved in vertebrate phototransduction. " Comp. Biochem. Physiol. 133B, 509-522.

■良く使用する材料・機器
1) 光散乱解析装置 Zetasizer-μV (スペクトリス株式会社)
2) 蛍光光度計 (株式会社日立ハイテクノロジーズ)
3) 蛍光顕微鏡 (オリンパス株式会社


H22~H25年度分野別専門委員
大阪大学・大学院理学研究科
久冨 修 (ひさとみおさむ)
http://gabriel.ess.sci.osaka-u.ac.jp/html/hisatomi/hisatomi-jp.html