高圧力

「タンパク質をぐるりと取り囲む水分子を使って
分子構造や酵素活性をコントロールする」

■背景
細胞内にある物質のうち約7割は水分子です。水はタンパク質やDNAをはじめとする生体分子を取り囲み、複雑な立体構造形成や酵素活性などの化学反応に深く関与しています。高圧力をかけてこの生体分子と水との相互作用を変えると、分子の構造や機能が大きく変化することが知られています。

図1高圧力顕微鏡 (a)高圧力下にあるサンプルを顕微観察できる高圧力チャンバー. (b) 最高1500気圧まで加圧できる手動圧力装置.

Movie1 高圧力チャンバー内で回転する大腸菌の位相差像. a)常圧力(1気圧)では、9つの細胞が反時計方向(青色)に滑らかに回転していた.b) マリアナ海溝最深部(10,924 m)の静水圧をうわまわる1,200気圧下で同じ細胞を観察した所、反時計方向(青色)に加えて、時計方向(赤色),両方向(緑色),停止(黒色)の計4種類の回転状態が観察された。(動画はこちら)

■研究概要
私達は、高圧力下にある分子や細胞を観察できる高圧力顕微鏡を開発してきました(図1、文献1)。この装置を使うことで、高圧力下で引き起こされる分子構造や酵素活性の変化をリアルタイムで観察できます。これまで行ってきた研究例として、べん毛モーターの実験を紹介します。バクテリア・べん毛モーターは代表的なタンパク質分子機械であり、細胞の外側に伸ばしたべん毛繊維を船のスクリューのように回転させる役割があります。私達は、べん毛繊維を固定して細胞本体の回転運動を観察するテザードセルの実験を行いました(Movie 1)。べん毛モーターの回転方向が変化しない菌体を用いたところ、常圧力下では細胞は滑らかに反時計方向にのみ回転しました。しかしながら、高圧力条件下(1200気圧)では、べん毛モーターの回転様式は大きくかわり、中には逆方向に回りはじめた細胞もありました(文献2)。モーターの回転方向を決定する部位が高圧力下では大きく構造変化したものと思われます。

■科学的・社会的意義
私達は、物理的な手法である高圧力技術を利用して、細胞への力学刺激で生命活動をダイナミックに変える研究を行っています。この遺伝子操作も化学物質の添加も必要としない手法により個体発生や分化誘導を行うことで、再生医療などへの貢献が期待できます。

■参考文献
1)西山雅祥, 曽和義幸 (2013) “細胞内の水で生命活動を操る! –高圧力下で観るタンパク質水和変調イメージング–" 化学 68(9): 33-38.
リンク:http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/178909
2)西山雅祥 (2013) “バクテリア・べん毛モーターが高圧力下で逆向きに回り出す!?” 生物物理53(5): 264-265.
リンク:https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/53/5/53_264/_article/-char/ja/

■良く使用する材料・機器
1) 光学顕微鏡 Ti-E(株式会社ニコン), IX83(オリンパス株式会社
2) 高圧力機器 (株式会社シンコーポレーション)
3) EM-CCDカメラ(アンドール・テクノロジーPLC)
4) ハイスピードカメラ LRH20000(株式会社デジモ)
5) 防振台 (日本防振工業株式会社)



H26年度分野別専門委員
京都大学・白眉センター
西山雅祥 (にしやままさよし)
http://www.hakubi.kyoto-u.ac.jp/02_mem/h24/nishiyama.html