神経変性疾患

「アルツハイマー病の発症機構に迫る」

■背景
アルツハイマー病は老人性認知症の半分以上を占める重篤な疾患です。健常人の脳内にも存在するアミロイドβタンパク質(Aβ)という小さなタンパク質が、不溶性となり凝集し脳に蓄積することが主な原因とされています。しかし、なぜ凝集するのかはよく分かっていません。



図1 神経細胞膜上でのアミロイドβタンパク質(Aβ)の凝集機構 本来可溶性でランダム構造のAβは、神経細胞膜で形成された糖脂質GM1のクラスターを認識し結合する。このクラスターの形成にはコレステロールが重要な働きをしている。GM1クラスターに結合したAβは、はじめα—ヘリックスに富んだ構造をとるが、結合量の増大とともに、β—シートに富む構造との共存状態となる。さらに結合量が増大するとアミロイド線維形成の核となる小さなアミロイドができ、可溶性Aβをリクルートして、アミロイド線維が形成される。この細胞膜上で形成される線維は、水中で形成される線維に比べ、毒性が高く構造も異なっている。

■研究概要
我々は、神経細胞膜に豊富に存在するガングリオシドという糖脂質がクラスター(塊)をつくることで、可溶性であったAβが神経細胞膜に結合し、時間とともにアミロイド線維という凝集体を形成し、細胞を死に至らしめることを見いだしました。この過程でAβは α ヘリックスに富む構造からβシートに富む構造に変化することを突き止めています(図1)。現在、このアミロイド線維の構造を調べるとともに、細胞死を引き起こすメカニズムを調べています。

■科学的・社会的意義
本研究は、大きな社会問題となっている老人性認知症の発症機構を明らかにするものであり、このプロセスをブロックできれば予防・治療薬の開発につながるものと期待されます。

■参考文献
1)Matsuzaki, K. (2014) " How do membranes initiate Alzheimer's Disease?
Formation of toxic amyloid fibrils by the amyloid β-protein on ganglioside clusters", Acc. Chem. Res. 47, 2397-2404.
2)柳澤勝彦、松崎勝巳、加藤晃一 (2012) 「アミロイド蓄積開始機構の解明と治療薬開発への展開」最新医学, 67, 138–158.

■良く使用する材料・機器
1)共焦点蛍光顕微鏡 C1si、全反射蛍光顕微鏡 (株式会社ニコンインステック
2)蛍光分光光度計 RF5300 (株式会社島津製作所)
3)フーリエ変換赤外蛍光分光光度計 TENSOR 27 (ブルカー・オプティクス株式会社)
4)円二色性分光光度計 J-820 (日本分光株式会社)


H27年度分野別専門委員
京都大学大学院・薬学研究科
松崎勝巳 (まつざきかつみ)
http://www.pharm.kyoto-u.ac.jp/yakkai/