細胞間認識・接着

「細胞間接着に基づくコミュニケーションから、体のしくみを探る」

■背景
私たちの身体は約60兆個もの細胞から成っており、それぞれの細胞が隣の細胞とコミュニケーションを取りながら、生体としての機能を維持しています。それには、細胞間の接着に関わる分子や情報伝達に関わる分子が、様々な形で働いています。それでは、どのような分子がどのように関わっているのでしょうか?



図 神経細胞とマスト細胞のコミュニケーション。
(左)神経突起とマスト細胞の接着の様子を示した微分干渉画像と蛍光画像。
神経細胞に蛍光蛋白質(RFP)をつけた接着蛋白質(CADM1)を発現させ、マスト細胞と一緒に培養しました。1の接着部位に比べて、2と3のマスト細胞の接着部位により多くの接着分子が集積していることが分かります。
(右)神経細胞を刺激したときの神経細胞とマスト細胞の細胞内Ca2+濃度変化。
縦軸は、細胞内Ca2+濃度に対応しています。細胞内Ca2+濃度の上昇は、細胞の活性化の目印になります。神経細胞を選択的に刺激すると、まず神経突起(N)でCa2+濃度が上昇し、その後、マスト細胞でもCa2+濃度が上昇しました。ただし、接着分子の集積が少ないマスト細胞(1)ではCa2+濃度は上昇せず、接着分子が集まっているマスト細胞(2と3)でCa2+濃度の上昇が起こりました。

■研究概要
この生物の根幹に関わる大きな疑問に答えるのは難しいのですが、我々は細胞間認識・接着の一例として、神経細胞とマスト細胞(肥満細胞)の細胞間コミュニケーションを追究しています。マスト細胞はアレルギー疾患の原因となるヒスタミンを分泌する細胞で、生体内では多くのマスト細胞が神経細胞の近くに存在していることが知られています。しかし、神経細胞とマスト細胞が実際にコミュニケーションしているかどうかは分かっていませんでした。我々は、ディッシュの中に神経細胞とマスト細胞を一緒に培養して、顕微鏡で細胞の活性化を観察しました。そして、神経細胞が興奮すると、神経細胞と接着しているマスト細胞が活性化され、アレルギー疾患の原因となるヒスタミンなどを分泌することを明らかにしました(文献1)。また、両細胞の接着に関わる接着分子の有無による接着力の違いを物理的に計測し、細胞間の接着力が強いほど、コミュニケーション能力が高いことを見つけました(図、文献2)。

■科学的・社会的意義
花粉症などのアレルギー性疾患は、患者数の増加、悪性化、難治化、低年齢化が大きな問題になっています。アレルギー性疾患は、抗原(アレルゲン)の侵入によって発症すると言われていますが、本研究によって、ストレスなどによる神経の興奮によってもアレルギー性疾患が発症する可能性が示されました。この結果は、新しい抗アレルギー薬の開発の手掛かりになると期待できます。

■参考文献
1) 古野忠秀 (2005).「顕微光学法によるマスト細胞活性化の分子機構の研究」 薬学雑誌, 125, 671-683.
2) Hagiyama et al. (2011). "Enhanced nerve-mast cell interaction by a neuronal short isoform of cell adhesion molecule-1, CADM1." J. Immunol., 186, 5983-5992.

■良く使用する材料・機器
1)倒立顕微鏡 TS-100 (株式会社ニコン
2)実験試薬 (和光純薬工業株式会社
3)共焦点レーザスキャン顕微鏡 LSM510-META (カールツァイスマイクロスコピー株式会社)


H24年度分野別専門委員
愛知学院大学・薬学部
古野忠秀 (ふるのただひで)
http://www.phar.agu.ac.jp/lab/anachembiophys/web-content/index.html