変性・折れたたみ

「ほどけたタンパク質が機能を持つ構造へ折り畳む原理を探る」

■背景
タンパク質はアミノ酸が数珠状につながった高分子鎖である。タンパク質は、タンパク質合成装置(リボソーム)による合成直後は、ほどけた鎖状の構造を持つ。その後、タンパク質は、自発的に、または、分子シャペロン(タンパク質の折り畳みを助けるタンパク質)の力を借りて、固有の構造へと折り畳み、生体内でその機能を発揮する。このように、タンパク質は固有の構造へ折り畳むことが可能で、タンパク質の種類が変われば、その折り畳み構造も変わる。では、タンパク質が固有の構造へ折り畳む原理とは何であろうか?
タンパク質が特定の構造を形成する過程は“折り畳み”と呼ばれる(図1)。一方、タンパク質の構造が崩れる過程は、“変性”と呼ばれる。タンパク質は変性すると、その機能を失う。例えば、生卵の白身は熱を加えると、透明から白色に変わる。これは、熱を加える前には、タンパク質は特定の構造を保持しているが、一旦熱を加えると、タンパク質は変性し、凝集するからである。このように、身近な現象の背後に、タンパク質の折り畳みと変性が関与している。では、タンパク質の折り畳み・変性は、どのような物理化学的な法則に従っているのであろうか?


図1:タンパク質の折り畳み・変性。タンパク質はほどけた紐状の変性した構造から特定の構造へと折り畳む。


■研究概要
タンパク質の変性・折り畳みの原理や法則を明らかにするために、タンパク質の構造や構造が変わる過程を調べることが重要だと考えられる。そこで、私達、研究者は、温度や溶液条件を瞬時に変えるような装置を開発し、折り畳み反応を開始させ、その折り畳み反応を観測している1)。この計測では、タンパク質が折り畳む過程や速度などを明らかにすることができる。また、NMRやX線小角散乱などの構造を調べる技術を用いて、変性したタンパク質の構造、及び、折り畳み構造と変性した構造の間にある中間的な構造を調べることができる。さらに、最近、タンパク質1分子がその構造を変化させる様を検出する単分子蛍光顕微鏡を用いて、折り畳み過程の詳細が明らかになりつつある2、3)。また、コンピュータ・シミュレーションを用いて、折り畳み反応を解析することも可能になっている。さらに、タンパク質の折り畳みゲームソフト“Foldit”を作製し、人々がゲームを通して折り畳み問題を解く過程を解析したユニークな研究もある4)。このように、研究者のアイディアに基づいた実験・計算手法の開発を通して、タンパク質の変性・折り畳みの原理や法則が徐々に明らかになりつつある。

■科学的・社会的意義
タンパク質の変性・折り畳みの原理や法則を明らかにできれば、生命現象の解明、医学や産業への応用が期待される。ヒトの遺伝子には、アミノ酸配列が分かるものの、その折り畳み構造や機能が分からないものが数多く存在する。変性・折り畳みの原理を明らかにできれば、未解明の遺伝子の機能を明らかにすることが期待できる。また、アルツハイマー病など、タンパク質の変性が関わる病気の解明にもつながる。さらに、折り畳みの原理を利用した、人工タンパク質を設計することが可能となり、産業にも応用することが期待できる。

■参考文献
1)Takahashi, S., Kamagata, K., “Staring at a protein: ensemble and single molecule investigations on protein folding dynamics” Advances in Chemical Physics, 146, 3-22, (2012).
2)Kamagata, K., Kawaguchi、T., Iwahashi, Y., Baba, A., Fujimoto、K., Komatsuzaki, T., Sambongi、Y., Goto, Y., Takahashi, S., " Long-term observation of fluorescence of free single molecules to explore protein-folding energy landscapes", J. Am. Chem. Soc., 134, 11525-11532, (2012).
3)Oikawa H, Suzuki Y, Saito M, Kamagata K, Arai M, Takahashi S., “Microsecond dynamics of an unfolded protein by a line confocal tracking of single molecule fluorescence”, Sci. Rep., 3, 2151, (2013).
4)Cooper S, Khatib F, Treuille A, Barbero J, Lee J, Beenen M, Leaver-Fay A, Baker D, Popović Z, Players F, “Predicting protein structures with a multiplayer online game”, Nature, 466, 756-60, (2010).

■良く使用する材料・機器
1) ストップトフロー装置(株式会社ユニソク)
2) 単分子蛍光顕微鏡 (自作、オリンパスニコン


H25年度分野別専門委員
東北大学・多元物質科学研究所
鎌形清人 (かまがたきよと)
http://www.tagen.tohoku.ac.jp/modules/laboratory/
index.php?laboid=34