タンパク質の輸送

「細胞質内で合成されたタンパク質がどのように生体膜を越えて
目的地に運ばれるの?」

■背景
遺伝子の産物であるタンパク質は細胞質内で合成されます。そのため、細胞質以外の場所で機能を発揮するタンパク質は、細胞質から生体膜を越えて適所へ正しく配置される必要があります。細胞内には、目的のタンパク質のみを選別し、機能する場まで運ぶ輸送装置が備わっています。それでは、いったい輸送装置がどのような仕組みで働くことにより、生体膜を越えたタンパク質輸送が実現するのでしょうか?




図1. バクテリアべん毛の模式図.
べん毛は、回転モーターである基部体、ユニバーサルジョイントであるフック、プロペラのように動くべん毛繊維の、3つの部分構造で構成されます。CM, 細胞膜/PG, ペプチドグリカン層/OM, 外膜。




図2. べん毛タンパク質輸送装置の模式図.
輸送装置は6種類の膜タンパク質(FlhA, FlhB, FliO, FliP, FliQ, FliR)と3種類の可溶性蛋白質(FliH, FliI, FliJ)からなります。6種類の膜タンパク質はべん毛基部体MSリングの中心部に輸送ゲートを形成します。3種類の可溶性タンパク質はATPアーゼ複合体として働きます。




図3. ATPアーゼ複合体とプロトン駆動力の役割分担.
(A)ATPアーゼ複合体は細胞内で合成されたべん毛タンパク質に結合します。(B)この複合体がべん毛タンパク質を輸送ゲートまで搬送します。その後、ATPアーゼ複合体がATPを加水分解します。(C)加水分解後、ATPase複合体は輸送ゲートから解離し、輸送ゲートがプロトン駆動力をエネルギー源に利用してべん毛タンパク質を輸送します。PMF,プロトン駆動力/H+, プロトン。


■研究概要
タンパク質輸送の仕組みを理解するため、私達はバクテリアの運動器官であるべん毛を研究対象にして研究を進めています。べん毛は約30種類のタンパク質からなる超分子複合体で、回転モーターとして働く基部体、ユニバーサルジョイントのフック、らせん型プロペラである繊維の、おおまかに3つの部分構造からなります(図1)。べん毛の伸長はべん毛先端で起こります。そのため、細胞質内で合成されたべん毛タンパク質は効率よくべん毛先端へ運ばれる必要があります。べん毛の基部には独自の輸送装置が存在し、その装置が高い特異性を持ってべん毛タンパク質を選別し、べん毛中心を貫通する細長いチャネルの中へ、そして先端へと輸送します。輸送装置は、6種類の膜タンパク質からなる輸送ゲートと、3種類の可溶性タンパク質からなるATPアーゼ複合体で構成されます(図2)。これまでの解析から、ATPアーゼ複合体が細胞質内で合成されたべん毛タンパク質を輸送ゲートまで搬送します(図3A)。ATPアーゼ複合体の助けにより、べん毛タンパク質が輸送ゲート内へ挿入されると、ATPアーゼであるFliIがATPを加水分解します(図3B)。その結果、ATPアーゼ複合体は輸送ゲートおよびべん毛タンパク質から解離します。その後の輸送過程は、輸送ゲートが細胞膜を横切るプロトン駆動力のエネルギーを使って推進されます(図3C)。

■科学的・社会的意義
赤痢菌、ペスト菌、病原性大腸菌O157などによる病原性細菌の感染症は重大な社会問題の一つです。これらの病原性細菌が宿主細胞に侵入する際、III型と呼ばれるタンパク質分泌装置が利用されます。べん毛タンパク質の輸送装置はIII型分泌装置と遺伝的にも機能的にも高い類似性があります。そのため、べん毛の輸送装置の動作機構が明らかになれば、感染症の予防を含めた、これまでにない新しい治療法の開発につながると期待されます。

■参考文献
1)Minamino, T., Morimoto, Y.V., Hara, N., & Namba, K. An energy transduction mechanism used in bacterial flagellar type III protein export. Nat. Commun. 2: 475 (2011).
2)Minamino, T., Imada, K., & Namba, K. Mechanisms of type III protein export for bacterial flagellar assembly. Mol. Biosyst. 4: 1105-1115 (2008).
3)Minamino, T., & Namba, K. Distinct roles of the FliI ATPase and proton motive force in bacterial flagellar protein export. Nature 451: 485-488 (2008).
4)南野徹, 難波啓一. 細菌べん毛タンパク質輸送におけるATPaseとプロトン駆動力の役割分担. 細胞工学. 27 (5): 476-477 (2008).

■良く使用する材料・機器
1)実験試薬(和光純薬株式会社
2)合成DNA(株式会社ジーンデザイン)
3)抗体(株式会社医学生物学研究所)
4)タンパク質精製装置(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)
5)蛍光顕微鏡システム(株式会社オリンパス
6)冷却CCDカメラ(浜松ホトニクス株式会社)
7)EMCCDカメラ(Andor Technology社)
8)電子顕微鏡(日本電子株式会社、FEIカンパニー)


H24年度分野別専門委員
大阪大学・大学院生命機能研究科
南野徹 (みなみのとおる)
http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/jpn/general/lab/02/