DNA-結合タンパク質

直接認識と間接認識

■背景
転写因子などDNA結合タンパク質は特定の塩基配列に結合して遺伝子発現を制御しています。では、DNA結合タンパク質はどのように特定の塩基配列を識別しているのでしょうか?そのメカニズムを明らかにするために、数多くのDNAとタンパク質の複合体の立体構造解析が行われてきました。それらの解析から、アミノ酸残基と塩基の対応にははっきりとした1対1の関係があるわけでないこと、アミノ酸残基と直接相互作用していない塩基配列を変えてもタンパク質とDNAの結合親和性が変わることが分かってきました。では、この特定の塩基配列をのみを認識するメカニズムをどのように理解したらよいのでしょうか?



図1 遺伝子の発現は複数のDNA結合タンパク質が制御領域に結合することによってコントロールされている。

■研究概要
この疑問に答えるため、タンパク質立体構造データベース(Protein Data Bank) に登録されたタンパク質とDNAの複合体構造の統計解析(構造バイオインフォマテイィクス解析)を行いました。図2に示すように、DNAの溝にタンパク質が入り込んで、アミノ酸が核酸塩基と直接的に相互作用しているのがわかります。また、DNAはタンパク質が結合することによって曲がっているのが分かります。私たちは、統計的な解析を通して、この2つの異なる性質、つまり、タンパク質とDNAとの直接的な相互作用(直接認識)とDNAの曲がりやすさなどの構造変形のしやすさ(間接認識)の観点からタンパク質のDNA認識機構が説明できることを示しました(文献1)。また、塩基とアミノ酸の相互作用の傾向及び塩基配列ごとのDNAの曲がりやすさを点数化することで、DNA結合タンパク質がどんなDNA配列に結合するか予測することもできるようになりました。さらに、タンパク質の結合する部位についてより詳細なDNA形状の統計解析から、DNAの副溝の幅をタンパク質は認識し分けていること(DNAの形状認識)(文献2)や分子動力学シミュレーション計算によってDNAの曲がりやすさには塩基配列依存性があることなどがわかってきました(文献3)。



図2 タンパク質とDNAの複合体構造。DNAの溝にタンパク質(らせん状のへリックス構造)の一部が入り込んでいるのが分かる。また、DNAはタンパク質が結合することで曲がっていることが分かる。

■科学的・社会的意義
本研究は、遺伝子の発現制御がどのような分子メカニズムによって制御されているのかを解明するのに役立つ共に、特定のDNAに結合する新たなタンパク質製剤や遺伝子治診断マーカーの開発など様々な応用研究に貢献することが期待されています。

■参考文献
1)Sarai, A. and Kono, H. (2005). “Protein-DNA Recognition Patterns and Predictions” Annu Rev Biophys Biomol Struct 34:379-398.
2)Fujii, S., H. Kono, S. Takenaka, N. Go, and A. Sarai. 2007. Sequence-dependent DNA deformability studied using molecular dynamics simulations. Nucleic Acids Res 35:6063-6074.
3)Rohs, R., Jin, X.,et al. (2010). “Origin of Specificity in Protein-DNA Recoginition” Annu Rev Biochem 79:233-269.

■良く使用する材料・機器
1) PCクラスター
2) スーパーコンピュータ
3) 公共データベース、PDB など


H27年度分野別専門委員
日本原子力研究開発機構・計算生命情報科学
河野秀俊 (こうのひでとし)
http://yayoi.kansai.jaea.go.jp/rgbf/jp/index.shtml





 

「RNAポリメラーゼによるDNA転写の分子機構を解明する」

■背景
DNA結合タンパク質のうちでも最も重要で、多くの研究者によって研究されてきたのがDNAの情報をRNAに転写するRNAポリメラーゼです。どのような分子メカニズムでRNAポリメラーゼがDNAを転写するのかを明らかにすることは、生物物理学者にとって大きな課題です。1990年代初めにアメリカの研究グループは非常に巧みな方法で、1分子のRNAポリメラーゼが転写を行う様子を光学顕微鏡を使って観察することに成功しました。



■研究概要
まず、DNAとRNAポリメラーゼからなる転写複合体をつくり、転写を一旦停止させます。この転写複合体を図1のようにRNAポリメラーゼのところでガラス表面に固定します。DNAの片方の端に小さなビーズ(プラスチック製の直径1µm程度の粒子)を結合させます。このビーズを光学顕微鏡で観察すると、ビーズはゆらゆらとブラウン運動しています。ブラウン運動の範囲はポリメラーゼの位置からビーズがくっついているDNAの端までの長さで制限されています。ここで、RNAの材料である4種類の基質ヌクレオチド(ATP、GTP、CTP、UTP)を含む溶液を流し込みます。すると転写複合体の転写反応が再開し、ビーズのブラウン運動が変化していきます。ビーズをDNAの下流(RNAポリメラーゼが転写していく方向の端)に付けた場合、RNAポリメラーゼ分子は転写を進めるにつれDNAをたぐり寄せるため、ビーズのブラウン運動の範囲はしだいに小さくなります(図1)。ビーズの運動範囲の変化からRNAポリメラーゼがたぐり寄せたDNAの長さ、すなわち転写の進み具合を知ることができます。この実験で求められたRNAポリメラーゼの転写の平均速度はおよそ20 塩基/秒で、同じ条件下での溶液中の大腸菌のRNAポリメラーゼの転写速度とほぼ同じ値でした。この方法は、簡単な装置で1分子の酵素が働いている様子を直接観察できる、非常に画期的な方法です。この方法を光ピンセット法*と組み合わせて、ビーズを介してDNAを引っ張った状態で、RNAポリメラーゼによる転写を観察した結果、RNAポリメラーゼ分子は最大25 pNの力でDNAを捕まえていることがわかりました(図2)。また、ビーズに回転を観察するための目印として小さな蛍光ビーズを付けることで、RNAポリメラーゼ分子はDNAを転写する時にDNAの右巻きらせん構造に沿ってDNAを回転させていることが分かりました(図3)。
*光ピンセット法
光を凸レンズで集光したときに、その焦点近傍に屈折率の高い粒子が捕捉される現象があります。この現象を利用して、直径1µm程度のプラスチック製のビーズを捕捉することによって、ビーズに結合させた生体分子を操作する方法を光ピンセット法といいます。

■科学的・社会的意義
生物物理学の研究者は、様々な技術を開発して生体分子の働くメカニズムを研究しています。ここで紹介したRNAポリメラーゼの実験は、その典型的な実験例です。RNAポリメラーゼ以外にも、生体内には様々なDNA結合タンパク質が存在しています。それらのタンパク質についても精力的に研究が行われています。その結果、DNA結合タンパク質分子の働くメカニズムについて、多くのことが分かってきています。

■参考文献
1) Schafer D A, et al.(1991). "Transcription by single molecules of RNA polymerase observed by light microscopy." Nature 352: 444-448.
2) Wang M D, et al. (1998). "Force and velocity measured for single molecules of RNA polymerase." Science 282: 902-907 .
3) Harada Y, et al.(2001). " Direct observation of DNA rotation during transcription by Escherichia coli RNA polymerase. " Nature 409: 113-115.

■良く使用する材料・機器
1)光学顕微鏡、蛍光顕微鏡(株式会社ニコンインステックオリンパス株式会社
2)高感度カメラ(アンドール・テクノロジー社、浜松ホトニクス株式会社)
3)防振台(ヘルツ株式会社)
4)実験試薬(和光純薬工業株式会社



H26年度分野別専門委員
京都大学 物質-細胞統合システム拠点
原田慶恵(はらだよしえ)
http://www.harada.icems.kyoto-u.ac.jp/index.html